秋の気配が深まる中、去年の秋袷を取り出した語り手は、季節の情景に寄せて過去の記憶と亡き肉親たちを回想していく。「雨の夜」では、針仕事をしながら幼い頃に裁縫を教えてくれた亡き伯母を懐かしみ、老いた親の痩せた肩を揉みながら得も言われぬ心細さを覚える。「月の夜」では、庭の池に映る月を眺めている最中、幼い甥が姉の真似をして無邪気に亡き兄の形見である硯を池に投げ入れてしまい、語り手は兄への思慕をさらに募らせる。「雁がね」の夜には、かつて下谷で貧しい荒物屋を営み細々と暮らしていた頃に文学の友と語り合った切ない過去を思い出す。そして「虫の声」では、以前籠で飼っていた松虫の鳴き声を病床の兄が嫌がり庭に放したこと、その年の暮れに兄が亡くなってしまったことを振り返る。翌年の秋、同じような虫の声を聞いた語り手や両親はそこに亡き兄の姿を重ね合わせて涙を流す。四つの秋の情景を通じて、失われた家族や友人、そして過ぎ去った日々の生活への尽きせぬ追憶が静かに語られる。
役割主人公・語り手
秋の情景に触れながら過去の思い出を回想する女性。かつて下谷で小間物を売る苦労を経験し、亡き肉親たちの面影を深く慕っている。
役割家族
病により若くしてこの世を去った語り手の亡き兄。形見の硯や、病床で気にかけていた松虫の鳴き声が、残された家族の涙を誘う。
役割家族・師匠・導き手
語り手が幼い頃に裁縫を教えてくれた人物。すでに他界しており、語り手は針仕事をするたびに当時の教えと彼女を懐かしく思い出す。
役割家族
語り手の老いた親。語り手に痩せた肩を揉まれ、亡き息子の死を思い起こさせる虫の声に接しては涙を流す。
役割家族・触媒
語り手の甥にあたる小さな子供。無邪気に姉の真似をして、語り手が大切にしていた亡き兄の形見の硯を庭の池に落としてしまう。
亡き兄であり、その死を深く悲しみ追慕している
幼少期に裁縫を教えてくれた師であり親族
肩を揉んで労わっている老いた親
無邪気な行動を見守る相手だが、形見の硯を落とされてしまう
時代背景
明治時代
場所
東京の住宅(かつては下谷に居住)
国
日本
- 秋の自然情景と結びついた亡き肉親への追憶
- 過去の苦しい生活や友との別れに対する哀愁
- 命の儚さと季節の移ろいにみる無常観