外務省の翻訳官である「私」は、致死量のモルヒネを服用し、死が訪れるまでの数時間の間に自らの卑怯な顛末を書き残す。4年前に行方不明になったかつての恋人・浅田雪子から突然の手紙が届き、「私」は妻に嘘をついて横浜のホテルへ向かう。「私」は雪子が姿を消した後に、震災で天涯孤独となった「深尾みな子」と同情から結婚し、雪子との約束を破っていた。ホテルで再会した雪子は、自らがやむを得ない事情で純潔を失ったことを涙ながらに詫びる。さらに雪子はアメリカで出会ったという純潔な友人を紹介するが、その女性こそが本物の「深尾みな子」であった。混乱する「私」の前に、ホテルの老料理人が駆け込んでくる。彼は自分が脱獄囚であり、震災の混乱に乗じて本物のみな子の戸籍を盗み、自らの娘に名乗らせていたことを白状する。その娘こそが「私」の現在の妻であった。老料理人は、真実を知った娘が責任をとって自刃したことを告げ、「私」宛ての電報を依頼する。しかし「私」は自らの嘘と醜悪な正体が露見することを恐れ、宛先をひったくって自宅へ逃げ帰り、妻の死顔を見ることもなく服毒自殺を図るのだった。
役割主人公・語り手
外務省で働く役人。見栄と自己保身からかつての恋人や妻に対して嘘を重ね、真実が露見した際に責任から逃れてモルヒネによる自殺を図る。
役割恋愛対象・触媒
「私」のかつての恋人。4年前に行方不明になりアメリカへ渡っていたが、やむを得ない事情で純潔を失った身を恥じながら帰国し、「私」を呼び出す。
役割家族・犠牲者
「私」の現在の妻。元はカフェの女給で、実は脱獄囚である老料理人の娘。父の犯した戸籍泥棒の罪と夫の裏切りを知り、責任をとるために自刃する。
役割対照キャラ・脇役
震災で両親と財産を失った横浜の貿易商の娘。雪子とアメリカで出会って帰国するが、自分自身の戸籍が老料理人によって奪われていた事実を知らされる。
役割触媒・脇役
妻(偽のみな子)の実父。かつて殺人で服役していたが関東大震災の混乱に乗じて脱獄し、娘の幸せのために本物のみな子の戸籍を盗んで与えた。
4年前に将来を誓い合ったかつての恋人
震災後に身寄りのない境遇に同情して結婚した現在の妻
実の親娘
アメリカで出会い共に帰国した純潔な親友
震災前に彼女の実家の店で働いていた元奉公人
時代背景
関東大震災から4年後の夏の日
場所
東京の自宅周辺および横浜のホテル
国
日本
- 見栄と保身が招く自己破滅
- 戸籍の偽造と真実の発覚
- 過去の因果と罪の清算