ロシアのペテルブルクで役所に勤める42歳の九等官ポプリーシチンは、局長の娘ソフィーに密かな恋心を抱いている。しがない下級官吏である彼は、貧しい生活に不満を持ち、課長からは身の程知らずの態度を厳しく叱責される。次第に精神の均衡を崩した彼は、ソフィーの飼い犬メッヂイが他の犬と手紙のやり取りをしていると思い込み、犬の寝床から手紙の束を奪い取る。その妄想の手紙から、局長の家の内情や、ソフィーが若い侍従武官と結婚することを知る。失意と鬱屈した虚栄心から彼の妄想はさらに飛躍し、新聞で知ったスペインの王位継承問題に結びついて、突如として自らがスペイン国王フェルジナンド8世であると確信するに至る。自作のガウンをまとい役所に出勤しなくなった彼は、やがて強制的に精神病院へと連行される。しかし本人はそこをスペインの宮廷や宗教裁判所だと思い込み、頭から冷水を浴びせられるなどの苛烈な扱いを王への試練だと解釈する。だが次第に耐え難い肉体的苦痛に追い詰められ、最後は狂気の底から遠い故郷の母親へ向けて助けを求める悲痛な叫びを上げる。
役割主人公・語り手
役所に勤める42歳の九等官。惨めな現実と強い虚栄心から次第に精神を病み、自らをスペイン国王だと思い込むようになる。
役割脇役
ポプリーシチンの上司。娘を地位のある軍人や高官に嫁がせようと目論む権力と野心の象徴。
役割恋愛対象・触媒
局長の美しい娘。ポプリーシチンから一方的に思いを寄せられているが、本人は華やかな生活や若い侍従武官に夢中になっている。
役割敵役
ポプリーシチンの直属の上司。彼の勤務態度や令嬢への身の程知らずの恋を厳しく叱責する現実側の人物。
役割触媒
ソフィーの飼い犬。ポプリーシチンの妄想の中で人間の言葉を話し、人間社会の虚栄を皮肉る手紙を書く。
役割脇役
ポプリーシチンの身の回りの世話をするフィンランド女。彼の奇行に驚きつつも従い見守っている。
一方的な熱烈な片思い
畏れと羨望を抱く上司
不真面目な勤務や妄想を厳しく叱責する関係
飼い犬とその主人
時代背景
19世紀前半
場所
ペテルブルク市街および精神科収容施設
国
ロシア
- 身分制度や官僚機構における下級役人の悲哀と虚栄心
- 現実の抑圧から逃避するために肥大化していく自己妄想と狂気の過程
- 人間社会の虚飾に対する犬の視点を借りた風刺