都に来て六年になる語り手の「わたし」は、国家の大きな出来事よりも、ある一つの「小さな出来事」が心に深く刻まれている。民国六年の冬の朝、わたしは人力車を雇ってS門へ向かっていた。強風の中、急に飛び出してきたみすぼらしい老女の服が車に引っ掛かり、彼女は転倒してしまう。わたしは老女が怪我をしたようには見えず、面倒に巻き込まれたくないため、車夫に構わず早く行くよう命じた。しかし車夫はわたしの言葉を無視して自ら老女を助け起こし、彼女を支えながら近くの巡査の派出所へと歩いていった。その無私な後ろ姿を見たわたしは、自らの保身しか考えない利己的な心を見透かされたような強い威圧感と激しい羞恥心を覚える。巡査から車夫がもう車を引けないと告げられたわたしは、無意識のうちに一掴みの銅貨を巡査に託して車夫に渡すよう頼む。帰り道、金で事を済ませようとした自らの行動に疑問を抱き、自分に彼を裁いたり評価したりする資格などないと深く省みる。この出来事はその後もわたしの目に浮かび、利己的な自分を恥じ入らせると同時に、自己を日々新たにし生きるための勇気と希望を与え続けている。
役割主人公・語り手
都に来て六年になる人物。車夫の無私な行動を目の当たりにし、自らの利己的で冷淡な態度を深く恥じ入る。
役割対照キャラ・師匠・導き手・触媒
わたしを乗せた人力車の車夫。倒れた老女を自ら進んで助け、派出所まで送り届ける実直で道徳的な人物。
役割触媒・犠牲者
白髪交じりで破れた服を着た女性。強風のなか車の梶棒に引っ掛かって転倒する。
役割脇役
派出所にいた警察官。老女を連れてきた車夫の事情を受け、わたしに車夫がこれ以上車を引けないことを伝える。
一時的な雇い主と雇われ人の関係。車夫の立派な振る舞いが、わたしの内面に強烈な反省を促す。
時代背景
民国六年の冬
場所
都の中の路上、S門付近
国
中国
- 特権意識を持つ層の利己主義と肉体労働者の無私な道徳性との鮮烈な対比
- 些細な日常の出来事が人間の内面に与える深い影響と自己変革の契機