監獄挿話 面会人控所

伊藤 野枝

青空文庫で読む
大正東京日本小説
権力・反逆階級・貧富家族・血縁愛・恋愛
あらすじ

アナキストである内夫のEら同志たちが不当な理由で収監され、龍子は東京監獄の面会人控所を訪れる。冷え切った待合室には同じく同志のMやS爺がおり、彼らとともに面会の順番を待つことになる。控所には、様々な罪で収監された囚人の家族たちも集まっていた。初めは不安げでよそよそしかった彼らも、待ち時間の長さの中で次第に打ち解け、親方の軽口に笑い、互いの悲哀や苦労を分かち合うようになる。龍子は、権力を笠に着て面会人を見下す看守の横柄な振る舞いや、Eを非難して自己保身に走る社会主義者の長老・T氏の欺瞞に対して静かな怒りを燃やしつつ、控室で繰り広げられる人間模様をじっと観察する。やがて長い順番待ちの末に呼び出された龍子は、ガラス越しにEとの短い面会を果たし、家で待つ幼い子供を思いながら急いで帰途につく。

登場人物8
龍子りゅうこ
守護者
女性活動家知識人

役割主人公・語り手・家族

アナキストであるEの内妻。不当に収監されたEや同志たちの世話を献身的に焼きながら、権力の横暴や保守的な因習に対して強い反発心を抱いている。

いー
反逆者
男性アナキスト知識人

役割恋愛対象・触媒

龍子の事実上の夫であり、徹底したアナキスト。権力に屈することなく、獄中生活をも読書の機会として楽しむほどの豪胆さを持つ。

えむ
知者
男性知識人

役割協力者・脇役

龍子らの同志。過去の獄中生活の経験があり、面会人控所で龍子と一緒に順番を待ちながら様々な獄内の事情を教える。

S爺えすじい
調停者
男性知識人

役割協力者

穏やかな人柄で周囲から慕われている同志の老人。不運にも収監された若き同志Yのために差し入れの手配などを行う。

T氏てぃーし
偽善者
男性B社経営者・ソシアリスト知識人

役割対照キャラ・対照キャラ

日本における社会主義の首領とされる人物。かつてはEの同志だったが現在は思想的に対立しており、龍子に対して保身的で皮肉な態度をとる。

わい
犠牲者
男性B社社員会社員

役割犠牲者

地方から上京してT氏を頼り、その会社で働いていた青年。偶然Eたちと同席していたために巻き込まれ、共に収監されてしまう。

老看守ろうかんしゅ
支配者
男性看守官僚

役割敵役・触媒

監獄の面会人控所に現れる小柄な老人。権力を笠に着た威圧的で横柄な態度で面会人たちを呼び出し、囚人家族を冷酷に扱う。

親方おやかた
道化
男性肴屋商人

役割脇役

控所で待つ面会人の一人。気さくで冗談好きな性格をしており、軽口を叩くことで重苦しい待合室の空気を和らげる役割を果たす。

人物相関5
龍子恋愛

内妻(事実上の妻)

龍子T氏対立

Eを非難する冷淡な態度に対する強い反感

龍子友人

獄中の事情を教え、不安を和らげる同志

S爺友人

収監された若き同志への差し入れと支援

T氏主従

自身の経営する会社で雇用している青年

舞台

時代背景

大正時代の冬(3月)

場所

東京監獄の大玄関横にある面会人控所および面会室

日本

テーマ
  • 国家権力の理不尽な抑圧とそれに抗う活動家たちの連帯
  • 監獄という特異な空間に集う市井の人々の悲哀と温かな人間模様
  • 保身に走る権威的な知識人と、信念を貫き弱者に寄り添う者との対比
キーワード
監獄面会人控所同志内妻看守ソシアリスト未決監