四月の菜の花が咲き乱れる大和路を、狂熱しやすい精神を持つ「私」はロマンチックな幻影を追いながら一人旅をしている。壺坂寺の近くでは昔の夢の女を思わせる機織りの女を見かけ、菜の花畑の続く街道では狐を思わせる異様な顔立ちの花嫁の行列に遭遇する。その花嫁の行列は、晴天に降る金銀の雨と共に霧の中へ消え去り、「私」はそれを狐の嫁入りではないかと怪しむ。夜になり、名も知らぬ古い街の宿に着いた「私」は、狸のように滑稽な宿の女から酒膳を受け取る。その後、宿に呼んだ盲人の老按摩から、一週間前にこの同じ宿で大阪の商家の若者が遊興の果てに進退極まって劇薬自殺を遂げたという凄惨な話を聞かされる。美しい春の景色と人間の欲望の末路である死の影が交錯する中、「私」は蛙の鳴き声を聞きながら不安と幻影の入り交じる夜を過ごし、翌朝には枕元の壁に血のような赤い蝶を見る。
役割主人公・語り手
大和路を一人旅する人物。狂熱しやすい繊細な神経を持ち、美しい自然の中でロマンチックな幻影に心を奪われる。
役割触媒・脇役
壺坂寺の近くで機を織っていた、雪のように白い顔をした若い女。「私」に昔の夢の女であるお里の幻影を連想させる。
役割触媒・脇役
菜の花畑の続く街道で「私」がすれ違った田舎の婚礼の花嫁。狐のように吊り上がった細い目を持ち、天気雨とともに霧の中へ消え去る。
役割脇役
「私」が泊まった古い街の宿で働く女。色が黒く狸のような風貌で滑稽だが、愛嬌がある。
役割語り手・脇役
宿に呼ばれてきた盲人の按摩。一週間前に同じ宿で起きた若者の凄惨な自殺事件について「私」に語って聞かせる。
役割対照キャラ・犠牲者
「私」が泊まる一週間前に同じ宿で劇薬自殺を遂げた若者。遊興の果てに進退窮まり、絶望の中で命を絶った。
客と宿に呼び寄せられた按摩
宿泊客と給仕をする宿の女
時代背景
明治時代頃の4月
場所
大和国の道中(壺坂寺周辺)から名も知らぬ古い街の宿まで
国
日本
- 白昼の幻想と現実の境界
- 美しい春の自然と死の影の鮮烈な対比
- 人間の尽きせぬ欲望の果てと旅愁