ある職工の手記

宮地 嘉六

青空文庫で読む
明治九州・沖縄日本小説
家族・血縁階級・貧富成長・変化孤独・疎外
あらすじ

佐賀駅前で宿屋を営む実家に生まれた語り手の「私」は、狡猾な継母に疎んじられ、妻に同調する実父からも冷遇されて家に居場所がなかった。13歳の秋、同郷の友人が佐世保の造船所で職工として働く姿に憧れ、両親を見返したいという反抗心から無断で家出を決行する。道中で偶然出会った車夫の善作の家に厄介になることになった私は、善作の息子である権八とともに、海軍造船所で軍艦の鉄錆を落とす「かんかん叩き」の少年労働者となる。過酷な労働環境や、権八からの理不尽な扱いに耐えながらも、自立への意地で働き続ける。ある日、権八との喧嘩で怪我をさせてしまうが、善作の寛大な処遇により事なきを得る。 その後、少年労働の仕事がなくなり、私は納屋住みの人夫となって木工場で働き始める。同室になった老労働者の爺さんは、職工の仕事の危険性や搾取される労働者の現実を説き、故郷へ帰るよう親身に諭すが、私の鉄工への憧れは消えなかった。 家出から3年後、造船職工として自立を果たした私の元へ、継母が着飾って面会に訪れる。私は彼女の虚栄心に反発しつつも、自立した自身の姿を見せつける。同じ年の秋には実父も突然訪ねてくる。父の不器用だが真実の愛情に触れて胸を打たれるが、私に故郷へ帰る意志はなかった。私はすでに「目ざめたる職工の仲間」と出会っており、思想を持つ労働者としての道を歩み始めていた。そして翌年、同志に合流するため私は関西へと旅立つ。

登場人物6
私(清六)わたし(せいろく)
反逆者
男性13少年労働者(かんかん叩き)のち造船職工労働者

役割主人公・語り手

継母との不和から家出し、佐世保の海軍造船所で過酷な労働を経て自立していく少年。後に目覚めた労働者として思想を持つようになる。

ちち
没落者
男性宿屋の主人商人

役割家族

佐賀駅前で宿屋を営む私の実父。若い頃は勘当され放浪したが今は家業に忠実。後妻に実権を握られ息子を冷遇するが、根は善良で愛情深い。

継母ままはは
偽善者
女性宿屋の女将商人

役割家族・敵役

実父の後妻で、私を疎外して家出の動機を作った狡猾な女性。私が自立すると立派な母を装って面会に訪れる。

善作ぜんさく
守護者
男性車夫労働者

役割協力者

佐世保に出稼ぎに来ている元佐賀駅の車夫。無一文でたどり着いた私を家に住まわせ、造船所での働き口を紹介してくれる恩人。

権八ごんぱち
支配者
男性少年労働者労働者

役割脇役・対照キャラ

善作の息子で、私より年上の少年労働仲間。居候の私を支配しようといじめるが、喧嘩を経て和解する。

爺さんじいさん
知者
男性手伝人夫労働者

役割師匠・導き手・協力者

平野組の納屋で同室になった老労働者。職工の過酷さや資本家に搾取される現実を説き、私に故郷へ帰るよう親身に忠告する。

人物相関4
私(清六)家族

実の父親。冷遇された反発と生来の愛慕という複雑な感情を抱く

私(清六)継母家族

私を疎外する継母。強い反発心から家出の動機となる

私(清六)権八同僚

居候先の息子であり造船所での少年労働仲間。喧嘩を経て和解する

私(清六)爺さん友人

納屋で寝食を共にし、親身に忠告をくれる老労働者

舞台

時代背景

明治時代中期

場所

佐賀の宿屋、佐世保の海軍造船所およびその周辺の町

日本

テーマ
  • 継母との確執と実父への愛憎
  • 過酷な肉体労働を通じた少年の自立と成長
  • 労働階級の悲哀と資本主義社会での搾取の構造
  • 新しい思想への目覚めと故郷との決別
キーワード
職工青服造船所継母かんかん叩き納屋住み機械労働者家出