夏の山奥の鉱山で働く事務員の池田は、自分を中傷する手紙を鉱主から受け取り、鬱屈した日々を送っていた。彼を陥れたのは対立する所長の石山だと推測した池田は、自暴自棄になって酒に溺れる。ある日、気晴らしに飯場頭の萩野や坑夫の三田とともに隣山の旧坑を見に行くが、そこで隣山の坑夫と諍いになる。池田が仲裁に入ってその場は収まるが、隣山の事務員である阿久津は不満を抱く。数日後、隣村の祭りで坑夫の寅吉が殺害される事件が発生する。警察の調べで三田が疑われるが、真犯人は新入りの若き坑夫・松田であった。先日の意趣返しとして阿久津が寅吉らをけしかけて三田を襲わせ、同行していた松田が三田を守るために咄嗟に寅吉を刺し殺してしまったのだ。松田は仲間と自らの運命を受け入れ、警察に自首する。彼を見送った池田は、自分の無為な日常への不満や些細な意地が回り回って罪のない青年に殺人を犯させてしまったことに強い自責の念を抱き、自らの卑怯さに絶望しながら泥酔する。
役割主人公
閉塞感のある鉱山で事務員として働く青年。無為な日常や周囲の人間関係に反発しながらも、抜け出せない己の卑怯さに倫理的な苦悩を抱えている。
役割協力者・語り手
「おやじ」と呼ばれる池田の親しい同僚。以前は千島で密猟船に乗っていた過去があり、枠にとらわれない考え方で池田の愚痴を聞く。
役割敵役
鉱主の妻の兄である新任の所長。無能で周囲から反感を買っており、池田を敵視して陰湿な嫌がらせを行う。
役割協力者
池田と親しくしている飯場頭。豪胆で仲間思いな性格であり、池田とともに隣の山へ行き騒動に巻き込まれる。
役割触媒・犠牲者
妻が妊娠中の坑夫。萩野たちと隣の山を訪れたことで阿久津の恨みを買い、祭りの夜に因縁をつけられて襲われる。
役割犠牲者・対照キャラ
新入りの大人しい若者。祭りの夜、仲間の三田が襲われた際に彼を守ろうと咄嗟に寅吉を刺し殺してしまい、運命を受け入れて自首する。
役割敵役・触媒
隣の山の事務員で、塩子の宿屋の息子。池田たちが旧坑を見に来たことを根に持ち、祭りの夜に坑夫をけしかけて三田を襲わせる。
役割犠牲者
塩子の山の坑夫。素行が悪く、阿久津に唆されて祭りの夜に三田を襲撃するが、反撃した松田に刺殺される。
気心の知れた同僚で、互いに不満を語り合う
事務員と所長という立場で互いに反発し合う関係
役職の壁を越えて行動を共にする親しい仲
旧坑での些細な諍いを根に持ち、三田を標的にして襲わせる
祭りに同行し、多人数に囲まれた三田を守るために刃物を振るう
襲撃してきた寅吉に抵抗し、結果的に刺殺してしまう
時代背景
大正時代(日露戦争後)
場所
茨城県の山奥の鉱山(高田、塩子、孫根周辺)
国
日本
- 閉塞した日常における知識人層の無力感と自己嫌悪
- 己の卑怯な振る舞いが他者の運命を狂わせる倫理的葛藤
- 労働者階級の理不尽な犠牲と連帯