あらすじ
大学卒業を目前に控えた医学士の花房は、千住で開業医を営む父のもとで代診の手伝いをする。新しい西洋医学を学んだ花房にとって、父の知識は古く時代遅れに見えたが、自身が漠然とした人生の目的を探して思い悩んでいるのに対し、父はどんな患者や日常の些事にも全幅の精神を傾注し、病人の死期を正確に見抜く直感を持っていた。花房はその泰然自若とした態度に有道者の面目を見出し、父を深く尊敬するようになる。のちに官吏となり直接患者を診る機会のなくなった花房にとって、千住での代診期間が医者らしい生活のすべてとなった。本作ではその時期に花房が的確に診断を下した、大笑いして顎が外れた青年の「落架風」、全身が硬直した少年の「一枚板(破傷風)」、他医に腫瘍と誤診されかけた女性の「生理的腫瘍(妊娠)」という3つの特異な症例(カズイスチカ)が回想として描かれる。
登場人物3人
花房はなぶさ
求道者男性医学士知識人
役割主人公
大学を卒業する直前に父の診療所で代診の手伝いをする青年。新しい医学知識を持つが、自身の生きる目的を模索しており、目の前の事に全力で取り組む父に畏敬の念を抱く。
翁(花房の父)おきな
知者男性医師知識人
役割家族・師匠・導き手・対照キャラ
千住で長く開業している老医。盆栽と煎茶を好む。医学の知識は古いが、どんな患者に対しても全幅の精神を傾注し、生死を見抜く鋭い直感を持つ。
佐藤さとう
道化男性書生学生
役割協力者・脇役
診療所で助手として働く越後生まれの書生。診断能力は未熟であり、時に誤った見立てをしては花房の的確な診断を引き立てる役目を持つ。
人物相関2件
花房翁(花房の父)家族
尊敬する父であり、人間としての生き方や医者としての在り方を教えられる存在
佐藤花房主従
診療所で若先生として頼り、自身の見立ての確認や指示を仰ぐ
舞台
時代背景
明治時代
場所
東京・千住周辺の診療所や近郊の農村
国
日本
テーマ
- 最新の科学的知識を持つ若者と、経験に裏打ちされた直感を持つ老医との対比
- 日常の些事や目前の仕事に全幅の精神を傾けることの尊さ
- 自己の目的がわからず漂う青年期の内省
- 患者を人間としてではなく症例(カズイスチカ)としてのみ扱うことへの複雑な感情
キーワード
代診落架風一枚板生理的腫瘍カズイスチカ全幅の精神盆栽煎茶