銀の匙

中 勘助

青空文庫で読む
明治東京日本小説
成長・変化家族・血縁自然・風土愛・恋愛
あらすじ

主人公「私」は、虚弱で神経過敏な子どもとして生まれ、神田の家で母に代わって愛情深い伯母の背中で育てられた。外の世界を恐れる「私」は、伯母の語る昔話や百人一首、古いおもちゃに囲まれた空想の世界に浸って過ごす。やがて一家が小石川へ引っ越すと、自然豊かな環境の中で近所の「お国さん」という初めての友達ができ、草花や虫の命に触れて感性を育んでいく。学校に上がることを頑なに拒んでいた「私」もやがて登校し始め、勝ち気で美しい同級生の「おちやん」と出会う。彼女との交流を通じて淡い恋心や嫉妬を知り、またいじめっ子の富公との対立を乗り越えることで、徐々に心身のたくましさを身につけていく。日清戦争が始まり世間が戦争熱に浮かれる中、「私」は周囲の粗野な風潮に違和感を覚え、孤立を深める。厳格な実の兄は「私」を鍛えようと釣りに連れ出し厳しく教育するが、自然のありのままの美しさを愛する「私」はその干渉に反発し、ついに決別を選ぶ。青年期を迎えた「私」は、一人で絵を描き、自然と対話することに心の拠り所を見出す。やがて老いて故郷へ帰っていた伯母を訪ね、彼女の深い信仰心に触れながら最後の別れを遂げる。17歳の夏、海辺の別荘で過ごす「私」は、友人の姉である美しい「姉様」と出会う。彼女に対して言葉にできないほのかな憧れを抱きながら、青春の感傷と美しい別離を通じて、静かに大人への階段を上っていく。

登場人物9
わたし
求道者
男性17学生武士

役割主人公・語り手

虚弱で神経過敏な少年。伯母の溺愛を受けて育ち、やがて自然の美しさや芸術、淡い恋情に目覚めて独自の内的世界を築いていく。

伯母さんおばさん
守護者
女性武士

役割家族・師匠・導き手

「私」を我が子のように溺愛し、手塩にかけて育てた愛情深く迷信深い女性。無尽蔵の昔話や百人一首で少年の情緒を育んだ。

お国さんおくにさん
凡人
女性武士

役割協力者

「私」が小石川で初めてできた遊び友達。勝ち気だが優しく、無邪気な草花遊びなどを通じて少年の心を開かせる。

おちやんおちゃん
支配者
女性その他

役割恋愛対象・対照キャラ

隣に越してきた勝ち気でおしゃまな同級生の少女。子供たちの間で女王のように振る舞い、「私」にほのかな恋心と嫉妬を経験させる。

あに
支配者
男性学生学生

役割家族・対照キャラ

厳格で独善的な「私」の兄。ひ弱な弟を自分の理想通りに鍛えようと釣りに連れ出し厳しく指導するが、価値観の違いから決別する。

中沢先生なかざわせんせい
知者
男性教師知識人

役割師匠・導き手・協力者

「私」の小学校の受持ち教師。元海軍士官で癇癪持ちだが根は優しく、「私」の個性を認めて見守ってくれた。

富公とみこう
悪党
男性学生職人

役割敵役

縫箔を内職にする家の息子で、餓鬼大将。「おちやん」を取り合って「私」に対立し、陰湿ないじめや乱暴を働く。

ばあやばあや
放浪者
女性花売り労働者

役割脇役

「私」が滞在する海辺の別荘の世話をする老婆。伯母と同郷で、波乱万丈の流浪の人生を経て深い信仰のなかに生きている。

姉様あねさま
超越者
女性富裕層

役割恋愛対象・触媒

「私」が17歳の夏を過ごした別荘に現れた、友人の姉。手の届かない美しさを持ち、少年に青春の淡い憧れと感傷的な別離をもたらす。

人物相関6
伯母さん家族

私を我が子のように手塩にかけて育て、溺愛する

お国さん友人

外の世界との接点となる最初の幼馴染

おちやん恋愛

互いにほのかな好意と独占欲を抱く幼い恋

家族

弟を無理に鍛えようと干渉し、反発される

富公対立

おちやんをめぐる恋敵であり、いじめの首謀者

姉様恋愛

17歳の私が言葉にできない淡い思慕を寄せる年上の女性

舞台

時代背景

明治時代

場所

東京(神田、小石川周辺)および海辺の別荘地

日本

テーマ
  • 虚弱で過敏な少年の内的世界の構築と自立への成長の軌跡
  • 育ての親である伯母の無償の愛と、避けられない老いと死による喪失
  • 自然の美しさや小さな生命に対する純粋な共感と驚嘆
  • 自己の目覚めと、世間の常識や兄の押し付ける価値観への静かな反抗
キーワード
銀の匙伯母さんお犬様お国さんおちやん木霊の峰