南北朝時代の暦応三年。足利将軍家の執事である高師直の娘・小坂部は、父が塩冶判官の妻に横恋慕していることを憂い、双ヶ岡の吉田兼好に恋文の代筆を頼む。兼好は「なよ竹の」とだけ記し、塩冶の妻からは拒絶を示す「重きが上の小夜衣」という返歌が届く。執着を断ち切れない師直は、権力を乱用して塩冶一族を謀反人に仕立て上げて討伐しようと企てる。父の暴走を止められないと悟った小坂部は、塩冶へ密告したのち、恋人の本庄采女と侍女の侍従を連れて都を落ちのびる。逃避行の途中で侍従は川に落ちて溺死し、塩冶一族が討伐される凄惨な最期を目の当たりにする。さらに、追手として現れた家来の荏原権右衛門らとの戦いで、采女も命を落としてしまう。絶望する小坂部の前に現れたのは、都で出会った明国出身の眇目の男だった。阿修羅を奉じる邪教徒である彼は、日本に争乱をもたらすために小坂部を魔神の権化と見定めており、彼女を播磨国姫山の古城(後の姫路城)にある天主閣へと導く。男から魔術を授けられ、采女の幻影とともに生きることを選んだ小坂部は、人間から魔性の存在へと転身する。その後、師直一族は滅亡し、世には戦乱が続く。姫路城の天主閣に棲みついた小坂部は妖怪として時の権力者から恐れられるが、やがて世の守り神として祀られるようになり、天下に太平が訪れる。
役割主人公
高師直の美しい娘。父の悪行を止められず都を落ちのびるが、異国の男に導かれて姫路城の天主閣に棲み、人間から魔性の存在となる。
役割触媒・脇役
双ヶ岡に庵を結ぶ法師で『徒然草』の作者。小坂部に頼まれて「なよ竹の」とだけ記した恋文の代筆をする。
役割敵役・家族
足利将軍家の執事で小坂部の父。塩冶の妻への横恋慕から塩冶一族を滅ぼし、自らも非業の死を遂げる。
役割恋愛対象・犠牲者
師直の近習で小坂部の恋人。小坂部と共に逃避行をするが、追手の権右衛門らと戦い命を落とす。
役割協力者・犠牲者
師直の館に仕える古女房。小坂部と采女の逃亡に同行するが、途中の川で足を滑らせて溺死する。
役割敵役
師直の家来。采女を妬んで小坂部との仲を裂こうと画策し、逃亡した二人を執拗に追撃する。
役割家族
師直の甥で養子。塩冶討伐に反対して養父と対立し、後に東国で討死する。
役割師匠・導き手・触媒
明国から渡来した阿修羅を奉じる邪教徒。日本に争乱を起こすため小坂部を魔神の権化と見定め、彼女を天主閣へ導く。
父であり、その無法な横恋慕と悪行を止めようとする
恋人であり、追手から逃れるために共に都を落ちのびる
小坂部を姫山の天主閣へ導き、呪いと邪法を授ける
采女を妬み、小坂部との仲を裂いて山名との縁談を進めようとする
養子であり、塩冶討伐を巡って激しく意見が対立する
小坂部に仕える女房で、逃避行に付き従う
時代背景
南北朝時代(暦応年間)から江戸時代初期にかけて
場所
京都の双ヶ岡や堀川の館、丹波路、播磨国の姫山(姫路城)
国
日本
- 権力者の横恋慕がもたらす一族の破滅
- 人間の悲劇に付け込み争乱を引き起こそうとする魔の存在
- 逃れられない運命と人間から妖怪への転身