安永年間の江戸。本所業平村に住む浪島文治郎は、腕が立ち情に厚い侠客でありながら、厳格な老母に孝行を尽くしていた。文治郎は、借金苦から心中しようとした袋物屋の友之助と芸者のお村を救い夫婦にしてやるなど、数々の弱者を助け、また悪党を拳で制裁しては改心させていた。一方、本所割下水の剣術道場主である大伴蟠龍軒と弟の蟠作は強欲な悪党であった。大伴兄弟は取り巻きの阿部忠五郎と共謀して友之助に賭け碁をさせ、証文を偽造して百両の金を騙し取ったうえ、お村を蟠作の妾として奪い、友之助を半殺しにして溝に投げ捨てる。さらに蟠龍軒は、阿部に名医を騙らせて眼病を患う浪人・小野庄左衞門を誘い出し、闇討ちにして名刀・彦四郎貞宗を奪うと、口封じのために阿部をも暗殺する。友之助から事の顛末を聞いた文治郎は大伴の道場へ談判に赴くが、大伴らの傲慢な態度と挑発に怒りを爆発させ、討ち入りを決意する。しかし、息子の血気盛んな行動を危惧した母は、文治郎の腕に「母」の字の刺青を彫り込み、軽挙を固く戒める。文治郎は母への孝行と正義感の間で苦悩する。その後、天涯孤独となった庄左衞門の娘・お町が親の仇を討つために文治郎のもとへ奉公を願い出る。母の勧めでお町は文治郎の妻となるが、大伴が奪った刀の特徴がお町の探す親の仇のものと一致したため、文治郎の決意は固まる。婚礼の夜から数日後、文治郎は大伴の道場へ忍び込む。蟠龍軒は不在だったが、文治郎は蟠作、お村、養母おさきらを討ち取り、友之助の無念を晴らす。文治郎は現場に残された貞宗の短刀を発見し、大伴が庄左衞門の仇であることを確信するのだった。
役割主人公・協力者
本所業平村に住む剣術・柔術の達人。親孝行で情に厚く、弱きを助け悪を挫く美男子の侠客。
役割家族・恋愛対象
眼病の父に孝行を尽くす娘。父の死後、仇討ちを志して文治郎に奉公を願い出、妻となる。
役割犠牲者
眼病を患い浪人暮らしをしているお町の父。大伴蟠龍軒に騙されて闇討ちにされ、名刀を奪われる。
役割犠牲者・触媒
借金苦からお村と心中しようとしたところを文治郎に救われた男。大伴兄弟に騙され、金と妻を奪われる。
役割犠牲者・触媒
友之助とともに文治郎に命を救われ夫婦となった元芸者。後に友之助を裏切り大伴の妾となる。
役割敵役
本所割下水の剣術指南。貪欲で残忍な性格で、友之助を陥れ、小野庄左衞門を暗殺して名刀を奪う。
役割敵役
大伴蟠龍軒の弟。兄と共謀して悪事を働き、騙し取ったお村を妾にするが文治郎に成敗される。
役割家族・師匠・導き手
文治郎の厳格な母。息子の血気盛んな振る舞いを戒めるため、彼の腕に「母」の字を彫って自重させる。
役割敵役
お村の強欲な養母。友之助を見限って大伴兄弟に取り入り、文治郎に成敗される。
役割協力者
悪妻のために没落していた元家臣だが、文治郎に妻を討たれて目を覚まし、親交を結ぶ。
役割敵役
大伴兄弟の取り巻き。名医を騙って庄左衞門を誘い出すなど悪事の片棒を担ぐが、大伴に口封じで暗殺される。
役割脇役
文治郎の家に居候する元博徒。調子が良いが文治郎を慕い付き従う。
役割協力者・脇役
元強請りの悪党だが、文治郎に鉄拳制裁と金を与えられて改心し、お町と文治郎の縁を取り持つ。
役割協力者
怪力無双の左官。無鉄砲で乱暴だが、文治郎の親切に触れて恩義を感じる。
妻。親の仇討ちを志し嫁ぐ
厳格な母。文治の行動を強く戒める
心中未遂を救い、世話を焼く相手
賭け碁で騙し、妻と金を奪い半殺しにする
元夫婦。のちに裏切られる
騙して呼び出し闇討ちにして名刀を奪う
悪事の共犯だが口封じに暗殺する
悪行を許せず道場への討ち入りを企てる宿敵
時代背景
江戸時代・安永年間
場所
江戸の本所周辺(業平村、割下水、松倉町など)、浅草
国
日本
- 義理人情に基づく弱きを助け強きを挫く精神と勧善懲悪
- 親への絶対的な孝行と、弱者を救うための義憤との間の葛藤
- 欲望に目が眩んだ人間の裏切りと破滅の顛末