放浪の宿

里村 欣三

青空文庫で読む
昭和前期海外日本小説
階級・貧富死・無常権力・反逆孤独・疎外
あらすじ

太陽が焼けつく満州の街。職を求めて奉天から歩いてきた左官の若者は、正念寺が営む不潔な無料宿泊所に辿り着く。そこには、妻を亡くして流浪する時計屋、ロシアに憧れ社会主義に傾倒する大連、そして粗暴な無法者の支那服と黒眼鏡がたむろしていた。支那服と黒眼鏡は野犬を撲殺して手際よく解体し、文句を言う寺の坊主を刃物で脅しつける。一方、大連はロシア人の酒場で声高に社会主義の気焔を上げていたが、白系ロシア人の密告により領事警察に連行されてしまう。その後、街の日本人商館で惨忍な強盗殺人・強姦事件が発生する。真犯人は忽然と姿を消した支那服と黒眼鏡であったが、事件の顚末を知らず餓死寸前で宿泊所に残っていた左官と時計屋が、手柄を焦る領事警察に誤認逮捕されてしまう。事態を受けた寺の坊主は、保身のために無料宿泊所の看板を取り外し、自ら踏み砕くのだった。

登場人物6
若者(左官)
犠牲者
男性左官職人

役割主人公・犠牲者

奉天から流浪してきた左官の青年。正念寺の無料宿泊所に転がり込むが、無法者たちの振る舞いに圧倒され、最終的に身に覚えのない強盗殺人の罪で誤認逮捕される。

時計屋とけいや
没落者
男性40時計修理工職人

役割脇役・犠牲者

妻を亡くして以来、店を畳んで流浪しているトラホームを患った男。若者と共に宿泊所に残り、餓死寸前の状態で冤罪により逮捕される。

大連だいれん
狂信者
男性行商労働者

役割脇役・犠牲者

大連から歩いてきた青年。ソビエト・ロシアに憧れて酒場で社会主義の気焔を上げるが、白系ロシア人に密告されて領事警察に連行される。

支那服しなふく
悪党
男性無職その他

役割敵役・触媒

支那服を着た筋張った顔の男。手際よく野犬を解体する冷酷な腕を持ち、黒眼鏡と共に強盗殺人事件を起こして姿を消す。

黒眼鏡くろめがね
悪党
男性無職その他

役割敵役

過去に殺人を犯した札付きのやくざ者。支那服と行動を共にし、乱暴な振る舞いの果てに強盗を働いて逃亡する。

坊主ぼうず
偽善者
男性僧侶宗教家

役割脇役・対照キャラ

正念寺の無料宿泊所を管理する僧侶。慈善を装いながら宿泊者を邪険に扱い、不都合が生じると保身のために看板を破壊する。

人物相関4
若者(左官)時計屋友人

無料宿泊所で同宿する流浪者同士であり、共に餓死寸前になり冤罪で逮捕される

支那服黒眼鏡友人

行動を共にする無法者の相棒であり、徒党を組んで強盗事件を起こす

大連若者(左官)友人

同宿者。酒場で酔った勢いで若者に酒を飲ませ、社会主義の気焔を上げる

坊主支那服対立

寺の敷地で犬を解体する支那服を非難するが、短刀で脅されて逃げ出す

舞台

時代背景

1920年代後半の夏

場所

満州の街にある正念寺の無料宿泊所やロシア人の酒場

中国

テーマ
  • 植民地における日本人の最底辺の生活と流浪
  • 無法者たちの暴力と巻き込まれる弱者の不条理な冤罪
  • 社会主義への無軌道な傾倒と容赦ない弾圧
キーワード
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