嘉永6年の黒船来航から明治初期にかけての激動の時代。木曾路・馬籠宿で本陣・庄屋・問屋の三役を務める青山家の跡継ぎである半蔵は、本居宣長や平田篤胤の国学に深く傾倒し、古代日本の純粋な精神を取り戻す王政復古の実現を熱望していた。参勤交代や和宮下向による過酷な助郷負担など、街道役人としての重責に苦しむ父・吉左衛門を助けながら、半蔵は村の教育にも尽力する。やがて明治維新を迎え、半蔵は新政府に理想の世の到来を期待した。しかし、新政府の地方官僚は旧尾州領の木曾山林をすべて官有地として没収する強硬策に出る。生活の糧を失った村民を救うため、半蔵は戸長として県に旧来の慣例への復帰を嘆願するが、逆に免職されてしまう。理想と現実の乖離に打ちのめされる中、旧家の没落や時代の波に翻弄された長女のお粂が自害を図る悲劇も起こる。失意の半蔵は神職の道へ進む手がかりを求めて上京し、教部省に一時奉職する。だが、そこでも国学の理想はすでに形骸化し、西洋化に浮かれる俗物的な役人たちの姿を目の当たりにして失望を深めるばかりであった。孤独を極めた半蔵は、天皇の行幸の際に憂国の思いから御馬車に自作の歌を記した扇子を投げ入れ、不敬罪で入檻・謹慎処分を受けてしまう。新しい時代の中で、純粋な理想を追い求めたがゆえに取り残され、深く傷ついていく半蔵の苦悩の半生が描かれる。
役割主人公
木曾・馬籠宿の本陣・庄屋の跡継ぎ。平田国学に傾倒し、王政復古による理想の世の到来を信じて村の世話や教育に尽力するが、新時代の現実に裏切られ苦悩する。
役割家族・脇役
半蔵の父で馬籠宿の駅長。長年にわたり街道と宿場の重責を担い、旧家の伝統と民衆の生活を守り抜こうとする思慮深い人物。
役割協力者・脇役
伏見屋の主人で馬籠の年寄役。吉左衛門の無二の親友であり、持ち前の快活さと商才で宿場の世話を焼き、時代の変化を鋭く観察する。
役割家族
半蔵の妻で、隣宿・妻籠本陣の出身。理想に燃えて家庭を顧みない夫を支え、没落していく青山家の中で現実的に子供たちを守り育てようとする。
役割家族・協力者
お民の兄で妻籠本陣の当主。半蔵の良き理解者であり共に横須賀へ旅した仲だが、半蔵よりも現実的で実務能力に長けている。
役割家族
吉左衛門の妻で半蔵の継母。武士の血を引く教養ある女性で、本陣の格式と義理を重んじ、青山家の奥を取り仕切る厳格な姑。
役割家族・犠牲者
半蔵の長女。感受性が強く父の気質を色濃く受け継いでおり、時代の変化に伴う旧家の没落や自身の縁談の破談などに傷つき、自害を図る。
役割師匠・導き手
中津川の医師で、半蔵らに国学を教えた旧師。維新後、理想から離れて横浜貿易の出稼ぎなど俗世の利に走ったため、弟子たちとの間に溝ができる。
役割協力者・触媒
平田門人の先輩。京都で足利木像の首を晒すなどの過激な尊王攘夷運動に身を投じ、後に教部省の役人や神社の宮司となる情熱的な人物。
役割対照キャラ・脇役
中津川の問屋の息子で半蔵の学友。平田国学に傾倒して家業を捨て京都や東京で国事に奔走するが、病に倒れる。
役割対照キャラ・協力者
馬籠の万福寺の住職。廃仏毀釈の嵐の中でも世の移り変わりを超越した態度で日常の修道に励み、半蔵の村の教育にも協力する。
父親。半蔵は父を尊敬しつつも、実務家肌の父とは異なる理想主義の道を歩む。
妻。半蔵の良き妻であるが、夫の夢想的な行動を理解しきれず苦労する。
妻の兄。街道の宿役人としての苦労を分かち合う義兄であり親友。
長女。半蔵の性質を最も色濃く受け継いでおり、半蔵の愛情と苦悩の対象。
半蔵に国学の目を開かせた師であるが、のちに道を違える。
平田国学の先輩。半蔵に新時代の都の空気や政治の実情をもたらす。
同門の学友。国学の理想を追い求めて互いに切磋琢磨する仲。
馬籠宿の重鎮同士として長年連れ添った無二の親友。
時代背景
嘉永6年(1853年)から明治8年(1875年)頃までの幕末・明治初期
場所
信濃国木曾・馬籠宿、江戸(東京)、京都、相州横須賀など
国
日本
- 国学の純粋な理想と明治新政府の現実的な政治との埋めがたい葛藤
- 近代化と西洋化の波に翻弄され没落していく街道宿場と旧家の悲劇
- 激動の時代に理想を求めて行動しながらも、社会から疎外されていく知識人の孤独