次郎物語

下村 湖人

青空文庫で読む
昭和前期九州・沖縄日本小説
成長・変化道徳・倫理家族・血縁愛・恋愛
あらすじ

乳が足りず乳母のお浜に預けられて育った次郎は、実家に戻されてから祖母の冷遇や母の厳格な躾に反発し、反抗的で孤独な幼少期を過ごす。母・お民の死や実家の没落、継母・お芳の登場といった試練を経る中で、次郎は常に愛を求め葛藤する。中学に進学した次郎は、朝倉先生と出会い「白鳥会」に参加することで、人間としての正義や真の良心に目覚める。しかし、五・一五事件などを背景とした軍部の圧力により、自由主義的な朝倉先生は学校を追われる。次郎は血書をしたためて抗議するが、自らも退学を余儀なくされる。上京した次郎は、朝倉先生が開いた「友愛塾」の助手となり、大河無門ら思索深き青年たちとの共同生活を通じて、自己の虚偽や驕りを深く見つめ直す。一方、次郎は親戚の道江に恋心を抱くが、彼女が兄・恭一を愛していることを知り、深い失恋の苦悩を味わう。二・二六事件が勃発し、軍国主義の波が友愛塾にも閉鎖の危機をもたらす中、次郎は自らの運命と愛の真実を求めて、迷いながらも思索を深めていく。

登場人物10
本田次郎ほんだじろう
求道者
男性学生その他

役割主人公

本田家の次男。乳母に育てられ、愛に飢えた幼少期を反抗的に過ごす。中学で良き師を得て自己の精神を磨き、青年へと成長する。

お浜おはま
守護者
女性校番労働者

役割協力者

次郎の乳母。実母から引き離された次郎に盲目的とも言える深い愛情を注ぎ、彼の心の最大の拠り所となる。

お民おたみ
支配者
女性武士

役割家族

次郎の実母。教育熱心で次郎を厳しく躾けるが、彼との間に心の溝を作る。後に病に倒れ、死の床で次郎と心を通わせる。

本田俊亮ほんだしゅんりょう
没落者
男性酒屋のち養鶏業商人

役割家族

次郎の父。大らかな性格で、事業の失敗で没落するが動じず、次郎の独立心を陰ながら温かく見守る。

お祖母さんおばあさん
支配者
女性その他

役割敵役・家族

次郎の祖母。次郎を毛嫌いし、兄の恭一ばかりをえこひいきするため、次郎の心に深い傷と反抗心を植え付ける。

お芳およし
凡人
女性その他

役割家族

次郎の継母。大巻運平の娘。実直で働き者だが、次郎からは長らく冷淡に扱われる。

朝倉先生あさくら
知者
男性教師のち塾長知識人

役割師匠・導き手

次郎の中学の教師で「白鳥会」を主宰。深い人間愛と自由主義の信念を持ち、軍部の圧迫で学校を追われた後、東京で「友愛塾」を開く。

本田恭一ほんだきょういち
調停者
男性学生学生

役割家族・対照キャラ

次郎の兄。温厚で聡明な性格。次郎のよき理解者であり精神的な支えとなるが、期せずして次郎の恋のライバルとなる。

大河無門おおかわむもん
求道者
男性27代用教員知識人

役割協力者・対照キャラ

京大出身の青年で友愛塾の塾生。深い思索と飄々とした態度を持ち、次郎に強烈な感銘と自己反省を促す。

道江みちえ
凡人
女性学生学生

役割恋愛対象

次郎が密かに思いを寄せる親戚の娘。彼女自身は恭一を一途に慕っており、次郎に手紙でその思いを打ち明ける。

人物相関6
本田次郎お浜家族

次郎の乳母であり、実の親以上に深い愛情で結ばれている

本田次郎朝倉先生師弟

次郎が心から尊敬し、その精神的教えに従う導き手

本田次郎本田恭一家族

次郎の兄。互いに理解し合うが、次郎の恋のライバルともなる

お祖母さん本田次郎対立

次郎を冷遇し、彼の反抗心の原因となる

本田次郎道江恋愛

次郎が密かに恋心を抱くが、彼女の心は恭一にある

道江本田恭一恋愛

恭一を一途に慕っており、彼との結婚を望んでいる

舞台

時代背景

大正末期から昭和前期(五・一五事件、二・二六事件の時代)

場所

福岡県(久留米周辺)および東京府(下赤塚)

日本

テーマ
  • 愛に飢えた少年の心の遍歴と、自己の虚偽や我執の克服を通じた精神的成長。
  • 家族内の愛憎や軋轢が、人格形成に与える不可避的な影響と運命の受容。
  • 権力や暴力に抗し、真の良心と自由、そして大慈悲の精神を貫こうとする倫理的探求。
キーワード
白鳥会無計画の計画友愛塾血書大慈悲歎異抄運命