大正時代、主人公の高間房一は苦学の末に医師となり、かつて天領であった古い気風の残る故郷・河原町に帰郷する。対岸の農村「河場」の出身である房一は、少年の頃に町側の子供から受けたいじめや見下された記憶から、町の人々に対して静かな反骨心と野心を抱いていた。房一は旧家・鍵屋の空き家を借りて「高間医院」を開業し、妻の盛子を迎える。有力な大石医院の存在や、農民出身の彼を一人前の医師として認めようとしない町の人々の空気を感じながらも、房一はしたたかに患者を増やしていく。ある日、鍵屋の法要に招かれた房一は、自分への席次が下座に設定されていることに気づくと、真っ向から抗議して途中で退席し、町の人々に強烈な印象を与える。その後も、幼馴染の徳次が巻き込まれた土工・鬼倉とのトラブルや、営林署での消防演習を火事と誤認した群衆による暴動騒ぎなど、厄介な事件が次々と起こるが、房一は機転を利かせて事態を収拾し、次第に周囲からの信頼を勝ち取っていく。一方で私生活では、妻・盛子の妊娠が判明し、父・道平が病に倒れるという出来事が重なる。肉親を前にして医師としての冷静さを保てない自分に直面した房一は、大石医院の若き医師・練吉に対診を頼むなどして危機を乗り越える。これらの経験を通して、房一の心の中にあった漠然とした野心は落ち着きを見せ、彼はこの河原町で医師として、そして地に足のついた生活者として生きていく覚悟を深めていく。
役割主人公
河場の農家出身だが、苦学の末に医師となり故郷の河原町で開業する。野心と反骨精神を秘め、町での自らの地位を切り開いていく。
役割家族
房一の妻。退職官吏の娘で几帳面かつ家庭的な性格。のちに妊娠し、房一に生活者としての自覚を促す。
役割家族
房一の父。温和で大らかな老農夫で、息子の成功を密かに喜んでいる。のちに卒倒し病床に伏す。
役割対照キャラ・協力者
大石正文の息子。スマートな風貌だが女性関係の放蕩を繰り返す。房一の率直さや親思いな一面に触れ、奇妙な親しみを抱く。
役割脇役
河原町で強い権威を持つ老医師。厳格で高雅な態度を取るが、放蕩息子の練吉には手を焼いている。
役割協力者・触媒
房一の幼なじみ。単純で小心だが、酒を飲むと粗暴になり、土工の親方とトラブルを起こす。
役割脇役
相沢家の婿。先代から冷遇されてきた過去の腹いせから、戸主となってから分家の喜作を相手に財産返還の訴訟を起こす。
役割脇役
旧家「鍵屋」の隠居。古風な律義さと端正さを持つが、法要の席で房一の予想外の抗議を受け狼狽する。
役割脇役
元陸軍下士官の町役場書記。権威のある者にすり寄る傾向があり、町内行事でも体裁を気にする。
役割脇役
房一の遠縁にあたる商人。保守的で冷ややかな態度をとり、医者として戻った房一を面白く思っていない。
役割触媒
鉄道工事を行う小倉組の親方。気性が荒く恐れられているが、息子を亡くして各地を転々とする寂しさを抱えている。
役割協力者
鍵屋の分家の当主で房一に家を貸している。相沢からの訴訟にも淡々としており、営林署での火事騒ぎでは房一と共に事態収拾にあたる。
妻
父
同業の若い医師で幼馴染
幼馴染の遊び仲間
財産返還の訴訟相手
父
甥の婿で絶縁状態
時代背景
大正時代初期(第一次大戦・大正天皇の御大典の頃)
場所
地方の小盆地にある河原町周辺
国
日本
- 故郷における自己の存在証明と地位の確立
- 閉鎖的な地方社会の人間模様と階級意識
- 立身出世の野心と現実の生活への着地