現代詩

武田 麟太郎

青空文庫で読む
昭和前期東京日本小説
死・無常孤独・疎外家族・血縁愛・恋愛
あらすじ

市役所の清掃課で臨時雇いとして働く主人公は、重い結核の症状に苦しみながら、銀座の茶房で働く妻・かつ子の収入に頼る生活を送っている。かつ子につきまとう客の岸田に対する嫉妬や、精神を病んでかつ子に横恋慕する兄・彦造、口うるさい老母との同居生活に、主人公の神経はすり減っていた。ある日、幼少期に自分を養子にしながら実子誕生を機に離縁した京都の伯父が危篤との知らせを受け、主人公は一人で赴く。伯父が奇跡的に持ち直す中、親族から遺産目当てと冷遇された主人公は、高校時代に心中未遂を起こした初恋の相手である僧侶の娘の消息を探り、彼女がすでに亡くなっていることを知る。東京に戻った後も主人公はかつ子の浮気を疑って自暴自棄になり、給料日にもかかわらず稼ぎを持ったまま衝動的に特急列車に乗って再び京都へ向かう。夜明けの京都で初恋の女性の墓を探し歩いた彼は、墓地で血痰を吐き、自らの死期が近いことを悟る。東京の自宅へ逃げ帰るように倒れ込んだ主人公のもとに、伯父の死を知らせる電報が届くが、旅費がないと騒ぐ母親をよそに、彼はただ布団を被って沈黙を続けるのだった。

登場人物8
自分(小倉清治)じぶん(おぐらせいじ)
没落者
男性市役所清掃課の臨時雇官僚

役割主人公・語り手

かつては成績優秀なエリート学生であったが、現在は市役所の薄給の臨時雇いとして働く青年。重い結核を患い、妻への嫉妬や貧困、転向後の虚無感から自暴自棄に陥っている。

かつ子かつこ
守護者
女性茶房の女給労働者

役割家族・恋愛対象

主人公の妻。銀座の茶房で働いて夫やその家族の生活を経済的に支えているが、客に人気があり、主人公に不貞を疑われている。

彦造ひこぞう
狂信者
男性無職その他

役割家族・対照キャラ

主人公の兄。東大を出て大蔵省に入省したが、早発性痴呆症のようになって退職。現在は誇大妄想を抱きながら、義妹のかつ子に強い執着を見せている。

母親ははおや
守護者
女性無職その他

役割家族

主人公と彦造の老母。貧しい生活の中で息子たちの看病や世話を焼くが、常に小言が多く金銭に執着している。

岸田きしだ
放蕩者
男性その他

役割敵役・触媒

かつ子の働く茶房の常連客。かつ子につきまとい、主人公の激しい嫉妬と疑心暗鬼を引き起こす原因となる。

栗原くりはら
没落者
男性無職知識人

役割脇役・対照キャラ

主人公の学生時代の友人で、かつての左翼運動の闘士。転向して出所した後は時代の反動化に怯えきっている。

伯父おじ
凡人
男性事業家富裕層

役割家族・触媒

幼少期の主人公を一時的に養子にしていた京都の伯父。腹膜炎で危篤状態に陥り、主人公が身内から冷遇される原因となる。

僧侶の娘そうりょのむすめ
犠牲者
女性学生(生前)宗教家

役割恋愛対象・触媒

主人公が高校時代に心中未遂を起こした初恋の相手。睡眠薬を飲み生き残ったが、後遺症を負い、既に亡くなっている。

人物相関8
自分(小倉清治)かつ子家族

妻であり、その稼ぎに経済的に依存しているが不貞を疑っている

自分(小倉清治)彦造家族

精神を病み妻に横恋慕する兄であり、疎ましく思っている

自分(小倉清治)母親家族

同居している口うるさい老母

自分(小倉清治)岸田対立

妻につきまとう恋敵であり、憎悪と嫉妬の対象

自分(小倉清治)栗原友人

かつての運動の同志であり、転向した現在の姿に同族嫌悪を感じている

彦造かつ子恋愛

義妹に対して誇大妄想を交えた異常な執着を抱いている

自分(小倉清治)伯父家族

幼少期に自分を養子にし、実子誕生後に離縁したかつての養父

自分(小倉清治)僧侶の娘恋愛

高校時代に共に心中未遂を起こした初恋の相手

舞台

時代背景

昭和11年頃

場所

東京の自宅、銀座の茶房、京都の帝大病院および嵯峨野の寺院

日本

テーマ
  • 知識階級の失業と貧困
  • 妻の不貞に対する疑心暗鬼と嫉妬
  • 不治の病の進行による絶望感
  • 過去の恋愛への執着と生の虚無感
キーワード
肺病茶房給料京都心中転向血痰電報