木乃伊の口紅

田村 俊子

青空文庫で読む
大正東京日本小説
階級・貧富愛・恋愛自我・正体美・芸術
あらすじ

みのると夫の義男は極度の貧困の中で暮らしている。文学で身を立てることを諦めかけた義男は、妻の才能を見下し、暴言や暴力を振るって支配しようとする。みのるは生活苦や夫との不和に苦しみつつも、芸術への情熱を捨てきれずにいた。ある日、義男は地方新聞の懸賞小説への応募をみのるに強要する。みのるは反発しつつも原稿を書き上げる。並行して、みのるは新劇団の募集に応じ、義男の反対を押し切って再び女優として舞台に立つ決意をする。熱心に稽古に励み本番を迎えるものの、容姿の醜さを劇評で指摘され、舞台人としての限界に直面する。劇団も間もなく解散し、二人は再び絶望的な状況に陥る。互いに別離を覚悟した矢先、義男に書かされた懸賞小説が当選し、百円の賞金を手にする。義男は自分の手柄だと誇示するが、この出来事を機にみのるは自身の才能への自覚を深め、義男の精神的支配から脱し始める。自作の選評に関わった簑村や有野などの文学士たちと交流して芸術的な刺激を受けた夜、みのるは赤い唇を持つ奇妙な木乃伊(ミイラ)の夢を見るのだった。

登場人物8
みのるみのる
求道者
女性作家志望 / 舞台女優知識人

役割主人公

貧しい生活の中で芸術への情熱を燃やす女性。夫の支配や容姿へのコンプレックスに苦しみながらも、小説や演劇を通じた自己表現と自立の道を模索し続ける。

義男よしお
没落者
男性文筆家志望 / 会社員会社員

役割敵役・家族

みのるの夫。文学を志すが芽が出ず、貧困に喘いでいる。妻の才能を信じずに暴言や暴力で抑圧しようとするが、一方で彼女の才能に依存してもいる。

メエイめえい
犠牲者
その他・不明

役割脇役・家族

みのると義男が飼っている白い小犬。貧しく荒んだ夫婦の生活において唯一の愛情と慰めの対象だが、時に義男の八つ当たりの犠牲となる。

師匠ししょう
守護者
女性琴の師匠職人

役割師匠・導き手・脇役

かつてみのるが慕い師事していた琴の師匠。みのるは自立のために彼女の元を離れたが、今でも心の支えとなっている。

行田
知者
男性脚本家知識人

役割脇役

外国帰りの新しい脚本家。新劇団において、自身の戯曲の女主人公としてみのるを抜擢する。

酒井さかい
知者
男性演出家 / 舞台監督知識人

役割脇役

新劇団の指導者。みのるの演技力を評価し、女優たちを巧みに指導して理想の演劇を目指す。

簑村みのむら
知者
男性文学士 / 評論家知識人

役割脇役・触媒

みのるの小説が懸賞で当選した際の代選者。彼女の作品を高く評価し、みのるに新たな芸術的刺激を与える。

有野ありの
道化
男性文学士知識人

役割脇役

簑村の友人。独特の飄々とした語り口で議論を交わし、みのるの心を惹きつける。

人物相関5
みのる義男家族

貧しい生活を共にし、愛憎入り交じる複雑な感情を抱く夫

義男みのる家族

生活の重荷としつつも、己の虚栄心から支配しようとする妻

みのる師匠師弟

かつて深く慕っていた琴の師匠

みのる行田同僚

新劇団で共に演劇の創造に取り組む関係

みのる簑村師弟

自分の作品の価値を見出し、評価してくれた文学士

舞台

時代背景

大正時代

場所

東京(谷中、上野、牛込、池之端周辺など)

日本

テーマ
  • 極度の貧困と生活苦の中における夫婦の愛憎と相互依存
  • 夫の精神的支配からの脱却と、女性の自己実現への渇望
  • 芸術的理想と現実、才能と容姿の限界に直面する苦悩
キーワード
貧乏芸術懸賞小説演劇小犬木乃伊(ミイラ)