あらすじ
昭和18年の暮れ。「私」は満5歳の息子・一郎を連れて箱根を訪れる。前日に初めて山を見て興奮した一郎の「山に登りたい」という願いに応え、私は息子を鍛える意図も込めて、湯本から元箱根までの険しい箱根旧街道を二人で歩き始める。道中、私は戦時下の厳しい時代を生き抜く逞しさを身につけさせようと、時にはわざと厳しく接し、理不尽に怒鳴りながらも、大声で「箱根の山は天下の険」と歌って息子を励ます。単調で過酷な山道に疲労と空腹が重なり、一郎は弱音を吐き、自ら挑んだ茨の近道で傷だらけになって泣き出してしまう。親の無理に付き合わせたことを不憫に思いつつも、私は疲れ果ててへたり込んだ一郎を背負い、残雪の凍る河床を裸足で歩くなどの苦難を乗り越える。やがて視界が開け、芦ノ湖を見下ろす元箱根にたどり着くと、一郎は元気を取り戻し、再び自らの足で逞しく湖に向かって駆け下りていくのだった。
登場人物3人
私わたし
守護者男性知識人
役割主人公・語り手・家族・師匠・導き手
一郎の父親。北支那への出征経験を持つ。戦時下の厳しい時代を見据え、息子を鍛えるためにあえて過酷な箱根の山歩きを強行するが、深い親心も持ち合わせている。
一郎いちろう
求道者男性5歳
役割主人公・家族・触媒
朝鮮の京城生まれ、東京育ちの満5歳の少年。初めて見る箱根の山に登りたいと無邪気にねだり、疲労と空腹に苦しみながらも健気に自らの足で歩き続けようとする。
婆様ばあさま
知者女性農民
役割脇役
須雲川の部落を過ぎた辺りで親子がすれ違った、柴を背負った老婆。親子に対して元箱根までの道のりの厳しさと、周囲に食物屋がないという現実を冷淡に教える。
人物相関1件
私一郎家族
息子。厳しく鍛えようと接する一方で深く愛している
舞台
時代背景
昭和18年(1943年)12月30日
場所
箱根の旧街道(湯本から芦ノ湖・元箱根まで)
国
日本
テーマ
- 過酷な自然に挑む幼児の無垢な逞しさと親子の深い絆
- 戦時下の不透明な時代に対する父親の危惧と厳しい教育観
- 困難を乗り越えた先に得られる達成感と生命力
キーワード
箱根街道箱根の山は天下の険お山近路芦ノ湖